大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)433号 判決

上告人

酒井敏雄

被上告人

富山県配置家庭薬商業組合

右代表者

常田政信

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

中小企業団体の組織に関する法律(以下「中小企業組織法」と略称する。)四七条一項、中小企業等協同組合法(以下「中小企業組合法」と略称する。)二七条六項によつて準用される商法二四七条による中小企業組織法に基づく商工組合の創立総会における定款の承認議決の取消の訴の係属中に、右商工組合の設立が許可されたうえ、その設立登記がされたときは、特別の事情がないかぎり、右議決取消の訴は利益を失うに至るものと解するのが相当である。

叙上の見地に立つて本件を見るに、原審の認定したところによれば、上告人が被上告商業組合の創立総会における定款の承認議決の取消を求める本訴を提起したのち、被上告商業組合は、昭和三八年一二月二八日付で富山県知事の設立認可をうけたうえ、同三九年一一月一一日その設立の登記を完了したが、上告人は、右設立登記の日から二年以内に、右の訴を中小企業組織法四七条一項、中小企業組合法三二条、商法四二八条による被上告商業組合の設立無効の訴に変更しなかつたというのであるから、上告人の右定款の承認議決取消の訴は、現在ではその実益がなく、訴の利益を欠くに至つたものと認めるほかなく、したがつて、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。

また、原審の認定したところによれば、前記創立総会によつて当初選任された役員はいずれも任期の満了により役員としての地位を失い、新たに後任役員が選任され、また、右創立総会において議決された事業計画の設定及び収支予算決定は、いずれも、初年度昭和三八年五月一日より昭和三九年三月三一日まで、次年度昭和三九年四月一日より昭和四〇年三月三一日までの分であつて、予定された年度をすでに経過し、現在では計画又は予算としての存在価値を失つている、というのであるから、これらの事情の変化によつて、右事業計画の設定及び収支予算決定に関する各議決並びに当初選任された役員選挙の各取消を求める訴は、特別の事情のないかぎり、訴の利益を失うに至つたものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかである(最高裁昭和三三年(オ)第一〇九七号同三七年一月一九日第二小法廷判決・民集一六巻一号七六頁、昭和四四年(オ)第一一一二号同四五年四月二日第一小法廷判決・民集二四巻四号二二三頁参照)。そして、原審の認定するところによれば、上告人は右特別の事情が存在するところにつき何ら主張立証もしていないというのであるから、上告人の右各訴はいずれも訴の利益を欠くに至つたものと認めるほかなく、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文とおり判決する。

(大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

上告人の上告理由

原審判決に対し次のとおり陳述する。

一、本件の創立総会決議取消請求控訴事件は(以下取消請求と云ふ)中小企業団体の組織に関する法律第四七条第一項中小企業等協同組合法第二七条第六項商法第二四八条によつて訴を提起したのである。

商法第二四七条の「総会の招集の手続又は其の決議の方法が法令に違反し又は不公正なるとき」に本件が該当するから商法第二四八条によつて、本件の創立総会の期日より三ケ月以内に訴を提起したのであるから適法に行つたのであるから訴の変更をする必要はない。原審は法律の解釈を誤つておるのである。

二、原審判決理由の「商法第四二八条による設立無効の訴」の原因となるものは創立総会が招集されない、又民法第九十条の公序良俗違反行為が有る場合等によるものである商法第二四七条総合招集の手続又は決議の方法が法令に違反しておる事を訴の原因としておる。したがつて訴の原因が別個である。原審判決の如く訴の変更をする理由がない。原審は法律の解釈を誤つている。

三、原審判決の商法第四二八条は「会社の設立の無効は其の成立の日より二年内に訴を以てのみ之を主張することを得る」と規定しているから、右記の二年内とは二年内の最終期日に相応する期日が訴を提起することができる最終の期日であるから商法第四二八条は消滅時効を定めた規定である。上告人は本件の創立総会が開催された日から三ケ月以内の期日に訴を提起したのであるから右記商法第四二八条の二年内の最終期日に相応する期日以内に訴を提起したのであるから、かりに原審判決の如く二年以内に訴を提起しなければならないとしても、右記商法四二八条に従つて訴を提起したことになるから適法に行つておる。したがつて訴の変更をする必要がない。原審判決は法律の解釈を誤つている。

四、原審判決の商法第四二八条設立無効の訴は登記事項を無効にする事を目的としておる。本件取消請求の訴は、本件創立総会における議決事項を無効にすることを目的とするもので両方共判決確定によつて法律上の効力を失うことになる。中小企業団体の組織に関する法律第四七条第一項準用中小企業等協同組合法第二七条第六項準用商法第二五〇条によつて決議事項の登記がしてある場合は其の登記が抹消されるのであるから訴を変更する必要がない。

五、本件の取消請求の訴に関して「原審判決は、「右議決取消の訴を設立無効の訴に変更し」と記載しておるが商法第二四七条商法第二四八条の訴に関する条文に対して設立無効の訴に変更を、しなければならないと指示した明文の法律がない。したがつて設立無効の訴に変更をする必要がない。原審は法律の解釈を誤つた。

六、原審判決は「そして設立無効の判決が確定しない以上」から「また設立登記を抹消する方法もないから」と記載しておるが右記四項の商法第二五〇条は「決議したる事項登記ありたる場合に決議取消の判決が確定したるときは本店及支店の所在地に於て其の登記を為すことを要す」と規定して設立登記事項を抹消することになる。又商業登記規則第八十五条は「取消又は変更の登記ををする場合には決議したる事項に関する登記を朱抹し」と規定しているから設立登記が抹消されるのである。したがつて設立無効の訴に変更をしなくてもよいのである原審は右記の商法及商業登記規則を見落して、法律の解釈を誤り不正な判決をした。

七、原審判決の「商法第四二八条設立無効の訴」に関しては当事者が何等主張をしておらないのである。原審裁判官が右記商法四二八条を見付け出して理論を構成して判決としたのであるが民事訴訟法第百二十七条によつて当事者に弁論をさせて立証を促す可きものであつた原審は右記訴訟法に違反して判決をしたのであるから上告した。原審は本書第一項から第七項までのとおり法律を見落し右記民事訴訟法一二七条に違反し又法律の解釈を誤り判決に重大な影響を及ぼしたものである。民事訴訟法第三九四条によつて上告をする。

八、本件創立総会において定足数及法定議決数が不足しておるにかかわらず定款、事業計画収支予算および役員選任が行われたのである。又役員選任は中小企業団体の組織に関する法律第四七条第二項準用中小企業等協同組合法第三五条に違反して行つたから取消請求の訴を提起したのである。上告人は右記の定款は無効であると主張しておるのである。本件商業組合創立総会の以後において新たに後任の役員が選任の行われたが法律上無効の定款によつて選任されたものであるから法律上の根拠のない役員である。被上告人が主張しておる佐賀地方裁判所、東京地方裁判所の判例(原審判決五枚目表に記載)は定款等が適法に設立登記されたから役員の選任を有効としたのである。しかし本件の取消請求を訴えておる定款は違法に議決して登記されておるから法律上は無効である。その無効の定款によつて本件創立総会の期日以後に役員が選任されておるのであるが其の役員は法律上の効力を有しておらない役員である。したがつて法律上は存在しておらない役員である本件創立総会において選任された役員選任取消を求める上告人の訴の利益がある。又右記創立総会において役員に選任された常田政信が昭和四五年六月六日に代表理事常田政信として登記しておるが無効の定款によつて代表理事に選任されたものであるから商法第二五〇条によつて判決が確定すれば右記理事長常田政信の登記が抹消されることになるから、商法第二四七条による取消請求の訴の利益を上告人が有するものである。

事業計画および収支予算についても右記のとおり違法に議決された定款によつて本件創立総会以後毎年実行されているとしても法律上無効の定款によつて議決されておるものであるから右記事業計画収支予算は法律上効力のないものである。したがつて商法第二四七条によつて取消請求の訴を提起した、上告人の利益がある。以上のとおりであるから原審判決は事実の認定および法律の解釈を誤つているものである上告人は民事訴訟法第三九四条によつて上告する。

〔附属書類(陳述書・判決書写)省略〕

上告人の昭和四六年四月一日付上告理由書の補正書記載の上告理由

一、原審判決理由につぎのとおり齟齬がある。

1 原審判決「六枚目表」の理由三に「商法二四七ないし二五〇条の決議取消の訴に関する規定が準用されるから」と記載されておる。右記商法第二五〇条は、決議したる事項の登記があつた場合において決議取消の判決が確定したとき其の登記をする。したがつて抹消されるのである。

2 原判決「六枚目裏」の理由に「また設立登記を抹消する方法もないから」と記載されておる。

右記1の如く商法二五〇条の規定が準用されると云つており乍ら右記2の如く抹消する方法もないからと記載して理論を発展させて本件訴を却下しておるから民事訴訟法第三九五条第一項第六号に該当するから上告する。

上告人の昭和四六年四月六日付上告理由書の補正書記載の上告理由

一、原審判決は法律を見落し、法律の解釈を誤り判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背があるから上告する。

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